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モンマルトルの片隅で

Ready (to be) made

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現在 Le Bal で展覧中のBas Jan Ader(ビデオ) と Taiyo Onorato and Nico Krebs (写真、インスタレーション)。レディーメイドの概念をちょっと覆し、ユーモアに『リアル』と『非リアル』の間を浮遊するコンセプチュアルアートの展示でした。

Bas Jan Aderはオランダ人作家(1942)で、重力に大きな関心を寄せているよう。
Fallsというタイトルが示す通り、4つのビデオには彼自身がパフォーマンスを行った墜落の瞬間が短くまとめられています。自転車から川に墜落、家の屋根から地面に落下、ぶら下がっていた枝から川に落下、強風とみられる中道の脇に落下。どれも日常にありそうな場面なだけに、アイタタタと顔をしかめつつも、ちょっとドリフ的な可笑しさや体当たり的精神に親しみを湧いてしまいます。『コンセプチュアルアートは感情を現さない』とされている考えを一蹴してしまいますね。
そんな冒険心いっぱいの彼は、プロジェクトとしてのヨットでの大西洋横断途中、難破してしまい33歳の若さでこの世を去ります。
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地下に下りて行くと、スイス人のアーティストユニットTaiyo Onorato and Nico Krebsの写真とインスタレーションの展示が一面に広がります。
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1979年生まれの彼らにとっての日常とは、溢れんばかりのイメージが覆い尽くし、目に見える現実が作られたものなのかそうでないのかという区別は、どんどん曖昧になってきています。
The Great Unreal は2005年のアメリカ横断中に撮影されたシリーズで、一見ロードムービーのようですが、よく観察すると、ウェスタンの世界に手を加えられた『作られたイメージ』であることを発見します。でも現実と非現実の境界線はどこなんだろう、目に見えるものと想像のなかにある世界の境界線は何なんだろう、と遊び心いっぱいの写真を前に一人で唸っていました。
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こちらのシリーズも、どこにでもある建築の風景に柱やポールなんかでちょっと手を加えることによってイメージの質が一気に変わって面白い。分かりやすく、それでいて知的センスを感じるものでした。
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現実とは体現するもの、そしてその中に小石を投じて小さな波紋を作るもの、といったどこか勇気づけられた展示でもありました。8月25日まで。



# by bluedandelion | 2013-06-13 17:34 | アート

Altérité

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5月までのパリは本当に寒くて、太陽の光りをすっかり忘れてしまっていたけど、6月に入り一気に夏模様になったこの頃。いつまで続くか分からないこの陽気を充分に満喫しようと、連日カフェのテラス席は大賑わいです。

そんなだから毎日何かしら理由を見つけて出歩いているかも。
先週は、新しい展示に変わったEspace Culturel Louis Vuitton の Altérité展を見て来ました。ちなみにルイヴィトン本店最上階にあるこのギャラリーからは、パリの町並みが綺麗に眺望できますよ。

Altérité とは日本語で『他性』を意味するもの。それは他人と自分ではなく、自分の中に潜む『他性』。手探りのアイデンティティー、自分の外界との膜の線引き、痛み、混乱、発見など、今のこの時期だからこそ、ようやく受け止められる重みというのもあるのかも、と思いました。

イスラエル人作家のGil Yefman の彫刻とビデオ。セラピーを兼ねた編んで作られた無数のオブジェは展示スペースの天井を覆い尽くし、まるで人間の内臓にいるかのような錯覚を思い起こさせます。
女性性と男性性の境目が流動化し、身体と外界の境界線も曖昧になったこのコミカルなオブジェに身をつつまれて踊る姿のビデオは、何かが漂流しているようでもあり、それこそが本来の人間の姿でもあるかのような印象を受けました。

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もう10年以上前から日本でもおなじみの澤田知子さんのセルフポートレート写真。
米国のシンディー・シャーマンとは次の世代のポートレートと言われているそうで、日常生活の中で写真が撮られる場面、例えば入学式やお見合い写真、といったものにクローズアップさせ、日本社会の中のアイデンティティーを問いかけます。
この展示では双子のような格好をした彼女が、既に海外でも通じる『Kawaii』に身を包まれて微笑むポートレート。表面に現れる姿と内に潜む姿の差異が、この微妙に違う格好をした一人二役の中に見え隠れするのかもしれません。

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今回の展示で最も強く印象に残ってる2人の作家。もう既に大御所になっているFrancesca Woodman と、イラン出身の若手作家 Reza Hazare。
Francesca Woodmanの実物の写真をまとまってみるのって、実は始めてかも。
縦横30cmにも満たない想像以上に小さな白黒写真は、脳裏にしみ込むくらい美しく、そしてやりようのない痛みや孤独を感じるのは、彼女が22歳で自殺をしたという事実を知ってのことなのかもしれない。身体とスペース、隠された身体、流動している身体。以前から大好きな作家だったけど、この展示を見て、改めて彼女の突き詰めた感性と美学にため息が出ました。

そして初めて知った Reza Hazareのドローイング。政治的亡命によりアフガニスタンからイランに住を変えた家族のもとに生まれた彼の主題は、戦争後の人間の再構築といったもので、それによって生じる痛みや多重人格性を生々しい線に変えて表現します。すごく勢いを感じる作風だったな。

他にもLeigh Bowery, Pierre Molinier, Tal Mazliach, Kader Attia といった作家の展示もあります。9月15日まで



# by bluedandelion | 2013-06-10 23:15 | アート

Gerald Petit <L'Entremise>

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8区の高級ショッピングエリアの一角にFondation d'entreprise Ricard のギャラリーがあります。
今まで結構足早に通り過ぎることが多かったけど、ちょっと気が向いて立ち止まってみました。

現在開催中のGerald Petit の写真と絵画の展覧会。場所もこの作家も馴染みがなかったからか、正直あまり落ち着いてみれてません。
伝説の誘惑によって引き裂かれて細分化されたイメージとは、といったテーマの展示だったかな。
展覧会のタイトルの『仲介』というイミから、愛情の挟間にあるもの、偶然と必然の間にあるもの、物質とイメージの間にあるもの、エトセトラ。
ちょうど解説ツアーをしてくれていたところだったのに、その話にもあまり釈然としないまま、中途半端に消化不良でギャラリー出て来てしまいました。
イメージのスタイルもいくつもあったので、今度はもっと数を見てみたいですね。
あとこの周辺に他のギャラリーがないのも集中できなかった要因のひとつかも。
意外に立地って重要なんですね。
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# by bluedandelion | 2013-06-10 19:37 | アート

Lorna Simpson et Ahlam Shibli

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昨日からJeu de Paume で新しい展示が始まり、雨雲のすき間を狙って行ってきました。

Lorna Simpson はアメリカ人写真作家で、よく言葉と一緒に白黒写真を展示することで有名です。
黒人の女の子の髪型とか後ろ姿とか、写真の中にイミを込めるというより、写真と言葉というメディアを用いて、象徴と現実の間のアイデンティティーやセックス、人種や社会階級を問い続けています。
…と、ここまでは昔教科書に載ってたことと大差はなかったけど、なんせ近年彼女が何をしてるか知らなかったもんだから、その後の展示で金のシルクスクリーンや、かぶり物したビデオなんかを発見したときには、ちょっとしたショックでした。
この時点で写真と文字を組み合わせる手法はもう使っていなかったけど、それでもその後のいくつかのビデオ作品で、記憶とか反射とか時間の流れとかがキーワードと思われるものをみて、もとにあるアイデアの部分は変わってないな、と感じました。と同時に、変化を恐れない彼女の作風の広がりをみてなんだか励まされました。
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霧が動くなかで口笛を吹く男性。その後、映像は巻き戻しの状態で再度流れ、口笛の音は普通の時間軸で流れる、といった彼女の写真にも感じることが出来る感覚の交差。
そういえば、他のビデオでもピアノを使ってたりと、やっぱり言葉と音という部分でつながっていますね。

下の階では(多分)始めて見るパレスチナ人作家Ahlam Shibli の展示がすごくよかったです。
『中東の同性愛者』『ポーランドの孤児院』『パレスチナのマイノリティー社会』『フランスの元兵士の葛藤』『パレスチナの殉教者の家族』の5つのテーマで展示されていて、ベールに包まれがちな場所とそこに関与する人のポートレートという、テーマとしては重くなりそうなとこを上手くまとめていたのはさすが。
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記憶というテーマにもつながるけど、彼女の写真にはポスターだとか写真だとかが写されていて、『イメージのイメージ』で重ねて行く歴史といった構造が見えて、いい発見でした。

特に奥に展示されていた『パレスチナ殉教者の家族』のポートレートは、一番存在感を発揮していました。
信じられないくらい大きく引き延ばした英雄風の殉教者が『いない』という存在感。
それをゲストルームなどの半公の場所に、家族の未来もひっくるめて飾られているポートレート。
なんともいいようのない思いや社会構成や価値観やイメージやらが、怒濤のように頭を回っていました。
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偶然今寝る前に読んでる本っていうかフランスの漫画が Chroniques de Jerusalem (Guy Delisle)というもので、同じパレスチナを舞台にしたもんだったから、それの実写板のような感じもしてちょっと親近感を覚えたのかも。
ちなみにこの作家の漫画も、彼の異国での生活をドキュメンタリーで描いた社会風刺的なもので、なかなか面白いです。
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# by bluedandelion | 2013-05-30 06:39 | アート

Vanessa Winship

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先日のカルティエと同じ14区にあるFondation Henri Cartier Bresson。
あまりにも大御所すぎるゆえか、無意識のうちに知った気になっていましたが、よく考えたら一度も足を踏み入れたことがない事実に驚愕し、場所も近いことだしカルティエつながりだし、ということで行って来ました。

モンパレナス墓地にほど近い、ひっそりした路地の一角にその財団はありました。
受付でとても気さくな女性の笑顔で迎えられ、なんだかそれだけで嬉しい発見です。
1、2階は企画展で、今はprix HCBを受賞したイギリス人作家Vanessa Winship のShe dances on Jackson 展をやっていました。
カリフォルニアからモンタナ、フロリダからヴァージニアを駆け抜けたアメリカ横断の中で撮影された白黒のランドスケープとポートレートが、簡潔にまとまられたスペースに交互に並びます。
人が場所に溶け、場所に人の姿を見、そこには一種アメリカ特有のメランコリーや孤独感といったものを感じとることが出来ます。
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きっとこういう展示は、本で見ても同じ感想を持たない気がするな。イメージの中を時間をかけて歩き、その空間の一部となってはじめて見えてくる物語というものもある気がします。
場所と人の結びつき、時間と空間の科学反応。象徴や個性的表現といった意図ではなく、飾らないまっすぐな視線の展示にとても惹かれるものを感じました。

3階部分は大御所アンリ=カルティエ・ブレッソンの歴史的写真があまりにも無謀儀に壁にかかっています。トイレの横や直射日光当りまくりだったからレプリカなのかな?どうなんだろ?でもきっとこの空間だからこそ、これらの写真も肩肘張らないものとして、そこに存在しているのかもしれないな。
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ひたすら白い空間の中でフレームも白く、でも冷たい感じではなくて木の陰なんかで休んでいるかのような、感覚にとても気持ちよく響く空間でした。
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# by bluedandelion | 2013-05-24 19:13 | アート

パリはモンマルトルで生活する中で、日々の写真やアートのこと、この街の片隅の匂い等を紹介します。またパリでの撮影等のお仕事も承っております。ご連絡はこちらまで。sakikikiya@yahoo.co.jp
by bluedandelion
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